電気伝導率やPH、溶存酸素、酸消費量、全蒸発残留物、塩化物イオンなど、ボイラ水質やボイラへの給水の水質管理項目について解説します。
- JISにボイラ水やボイラ給水の水質の管理項目が規定されているけど、なんで必要なの?
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電気伝導率?PH?硬度?酸消費量?Mアルカリ?ってどういう意味?
こんな方に向けた記事です。
ボイラ水質やボイラ給水の管理項目
給水やボイラ水を適切に処理しなかった場合、ボイラーの腐食、スケールの付着、キャリーオーバーなどの障害が発生します。
このため、JISには、ボイラへの給水とボイラ水の水質基準が定められています。
・pH ・溶存酸素 ・酸消費量(pH4.8)(Mアルカリ)
・酸消費量(pH8.3)(Pアルカリ) ・全蒸発残留物(電気伝導率)
・塩化物イオン ・リン酸イオン ・亜硫酸イオン
・ヒドラジン ・シリカ ・鉄
・銅 ・硬度
では、これらの管理項目がなぜ定められているのかを見ていきましょう。
ボイラ水によるボイラの障害についてはこちらの記事を参考にしてください。
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pHを管理する理由
pHは、ボイラの内部の腐食を防止するために定められています。
ボイラの構成成分である鉄が水に触れた場合の化学反応を見ていきましょう。
(1)鉄が水と触れている場合、鉄イオンは水中に溶出し、電子が2e残ります。
Fe ⇒ Fe2+ + 2e
(2)一方、水はその一部がH+とOH-に電離しています。
H2O → H+ + OH–
(3)(1)のFe2+は、(2)の水中のOH–と反応して、水酸化第一鉄Fe(OH)2となります。
Fe2+ + 2OH → Fe(OH)2
(4)一方で(1)の2e(2個の電子)は、(2)のH+と鉄の表面で放電中和して、原子上水素2Hとなります。
以上をまとめると
Fe2+ + 2OH– +2e + 2H+ ←→Fe(OH)2 + 2H
よって
Fe + 2H2O ←→ Fe(OH)2 + 2H ・・・・・・・・(5)
水酸化第一鉄Fe(OH)2は難溶性の保護被膜を、2Hは水素被膜を形成し、これらは鉄表面をおおうので、イオン化傾向による鉄の腐食を抑制します。
しかし、PHが低い場合、つまり、水中のH+が多い場合、以下のようにFe(OH)2は中和溶解してしまします。
Fe(OH)2 + 2H+ → Fe2+ + 2H2O
Fe(OH)2が溶出してしまうと、(5)の式がどんどん右側に反応して鉄の腐食が進んでしまいます。
一方で、pHが高くなりすぎるとアルカリ腐食が発生するため、ボイラ水のpHを適切な値に管理する必要があります。
溶存酸素
鉄の腐食を防止するため、ボイラ水やボイラへの補給水中の溶存酸素は厳しく管理する必要があります。
水中に溶存酸素がある場合には、鉄を皮膜として保護する水酸化第一鉄と原子状水素2Hを酸化させます。
4Fe(OH)2 + O2 + 2H2O → 4Fe(OH)3
2H + 1/2O2 → H2O
よってFe(OH)2が減少すると、前述した式の
Fe + 2H2O ←→ Fe(OH)2 + 2H
はその減少量を補う方向に反応が進むのでFeがFe(OH)2へと変化する量が多くなるので、どんどん鉄は腐食してしまいます。
ボイラへの補給水の溶存酸素を取り除く脱気器についてはこちらの記事を参考にしてください。
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酸消費量(pH4.8)(Mアルカリ)、酸消費量(pH8.3)(Pアルカリ)
酸消費量は、ボイラ水のpHを間接的に管理するとともに、ボイラ内面にシリカスケールが付着することを防止する目的で定められています。
酸消費量はボイラ水中ではアルカリ性になる物質の量を表し、常温において酸で中和される性質をもつものの量を炭酸カルシウムの量で換算した値を表します。(酸消費量(pH4.8)は試料をpH4.8まで中和するのに要する酸の量を、酸消費量(pH8.3)は試料をpH8.3まで中和するのに要する酸の量を示します。)
シリカは溶解度が小さく、ボイラの内面にスケールを構成します。
これを防ぐために、シリカがアルカリ成分により、下式の通り、メタけい酸イオンとなるように酸消費量(pH8.3)を調整します。
$$SiO_{2} + 2NaOH → Na_{2}SiO_{3} + H_{2}O$$
上式より、シリカをメタけい酸イオンの形態になるようにするには、シリカ1mol(1mg)に対して水酸化ナトリウム2mol(1.33mg)、炭酸カルシウムに換算すると1.66mgが必要となります。
つまり、シリカ濃度に対して、酸消費量(pH8.3)を1.66倍以上を保つ必要があります。
全蒸発残留物(電気伝導率)
全蒸発残留物は、水を完全に蒸発させたときに残留する物質(資料1リットルあたりのmg)で、キャリーオーバーやスラッジの過剰な堆積を防止するために管理します。
キャリーオーバーとは、ボイラ水中の不純物や水分が、蒸気と共にボイラ外へ排出されることを指します。
万が一キャリーオーバーが発生してしまうと、過熱器管や蒸気タービンの羽根などに析出物が付着して、ボイラ効率やタービン効率が低下するだけでなく、最悪の場合、局部過熱による過熱器管の破裂やタービン羽根の腐食が発生します。
全蒸発残留物を測定するには多くの時間が必要となるので、比較的短時間で測定できる電気伝導率の測定で代替えします。
電気伝導率はボイラの給水やボイラ水の電解質の濃度を示します。
懸濁物や有機物の濃度が高い水においては、全蒸発残留物との乖離が大きくなりますが、多くの場合は、懸濁物や有機物を取り除いたものがボイラ水に使用されるので、全蒸発残留物≒電気伝導率と扱いできます。
塩化物イオン
塩化物イオンは、鋼の表面を覆い腐食を防止している酸化被膜を破壊して、局所的に濃縮して腐食を促進する成分のため、その濃度をしっかりと管理する必要があります。
また、ボイラ内で化学的に変化しない性質であるため、給水中の塩化物イオン濃度がボイラのブロー率を決定するボトルネックとなる場合があります。
ボイラの連続ブロー率の決定方法はこちらの記事を参考にしてください。
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リン酸イオン
リン酸イオンは、リン酸塩(Na3PO4,Na2HPO4など)を溶解したときに発生するイオンです。リン酸塩はpH調整や硬質スケールを抑制するためにボイラ水へ注入する薬品として利用されます。リン酸イオンを管理するのは、薬品の注入量が適正であるかどうかを確認するための項目です。
カルシウムはリン酸イオンと下式と反応して、浮遊性の水酸化りん酸5カルシウムとなり、スケール化しなくなります。
$$5Ca(HCO_{3})_{2} + 3Na_{3}PO_{4} + NaOH$$
亜硫酸イオン
亜硫酸イオンは亜硫酸ナトリウムなどを溶解することで発生するイオンで、安全性が高い脱酸素材として使用されます。
2Na2SO3 + O2 → 2Na2SO4
しかし、ボイラ水中の酸素量に対して亜硫酸イオンが不足すると硫酸イオンによる不足が促進さるので注意が必要です。また、温度が高くなると二酸化硫黄などになり復水系統でpHの低下や腐食を生じるので5MPa以上のボイラには使用できません。
ヒドラジン
ヒドラジンはボイラ水の溶存酸素を除去する目的でボイラ給水に注入されます。
N2H4 + O2 → N2 + 2H2O
過剰に投入しても熱分解により、窒素や水、アンモニアしか発生しないので、通常は酸素量に対して過剰気味に投入されます。(下記式の水素はイオンとなり、OH–と反応して水になります。)
3N2H4 → 4NH3 + N2
2N2H4 → 2NH3 + N2 + H2
3N2H4 → 2NH3 + 2N2 + 3H2
シリカ
シリカはカルシウムなどの硬度成分と結合して、硬質のスケールを生成するため、ボイラ水中の濃度を管理します。
鉄
鉄は配管での腐食によって発生し。ボイラーにおいてスケールやスラッジの増大因子となりるため、その濃度を管理します。
銅
銅は熱交換器から腐食によって溶けだします。鉄と同様に、ボイラーにおいてスケールやスラッジの増大因子となりるため、その濃度を管理します。
硬度
カルシウムやナトリウムなどの硬度成分は、ボイラ内面にスケールを生成するため、その濃度を管理する必要があります。
どのような硬度成分がスケールを生成するのかはこちらの記事を参考にしてください。
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以上、参考になれば幸いです。