【計算例あり】ポンプのNPSHとキャビテーションについて分かりやすく解説

こんな人に向けた記事です。

  • ポンプのキャビテーションって?どうやって防ぐの?
  • ポンプのNPSH3とNPSHaveって?どうやって計算するの?

この記事では、ポンプのキャビテーションとNPSHについて解説します。

計算例を挙げて分かりやすく解説しますので、参考にして頂ければ幸いです。

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ポンプのキャビテーションとは?

水に熱を加えると沸騰しますが、水は圧力が下がることによっても沸騰します。

ポンプの吸込口において搬送流体の速度が早くなり、流体の圧力(静圧)が下がることで、流体の一部が気化し、気泡が発生します。
さらに羽根車へ流入した液体は、ポンプの羽根車の運動により昇圧され、発生した気泡はすぐに流体へ戻ります。

こうして、気泡が発生・消滅することによって衝撃波が発生し、この衝撃波が羽根車やケーシングを叩くことをキャビテーションと言います。キャビテーションが発生すると最悪の場合、ポンプが故障してしまいます。

では、キャビテーションが起こらないようにするにはどうすれば良いのでしょうか?

これを考えるには、NPSHについて理解する必要があります。

 
火プライオン
キャビテーションは、ポンプ吸込口付近で搬送流体が飽和蒸気圧に達してしまうことによって起きる現象なんだね!

NPSHとは?

NPSHとは、Net Positive Suction Head(正味吸込みヘッド)の略で、キャビテーションが発生しないように運転できるかどうかを示す指標です。

NPSHには、「ポンプに必要なNPSH(NPSHreq)」と「ポンプに有効なNPSH(NPSHava)」の2種類があり、

NPSHreq < NPSHavaとなれば、キャビテーションが発生せずに安全にポンプを運転できることを示します。

では、それぞれについて見ていきましょう。

・ポンプに必要なNPSH (NPSHreq,NPSH3)とは?

NPSHreqは、Net Positive Suction Head required の略で、キャビテーションが発生しないために必要な吸込み水頭を指します。NPSH3とも書きます。

ポンプは吸込口の圧力を高くすること(水頭を確保すること)で、ポンプ吸込み口での局所的な圧力損失や流速上昇によって、流体の飽和蒸気圧(流体が気化する圧力)まで、圧力が低下しないようにしなければなりません。

この確保しなければならない水頭をNPSHreqと呼びます。

 
火プライオン
NPSHreqは「ポンプの羽根車に吸い込まれる直前の流体の速度ヘッドと吸込み口の局所的な圧力損失の和」であると言えるんだね。

NPSHreqの求め方

ポンプの性能曲線より求める

ポンプのNPSHreqは、ポンプの性能曲線から求める事が出来ます。
 

モノタロウ 遠心ポンプの基礎講座 3-1ポンプの性能曲線の見方より引用

上図の性能曲線では、吐出し量7m3/minの時にNPSHreq(=NPSH3)が3.5mであることが分かります。

計算式より概算する

また、ポンプの性能曲線がなくても、以下の式からNPSHreqを推測することも出来ます。

$$NPSHreq = \left(\frac{N \times Q^{\frac{1}{2}}}{S}\right)^{\frac{4}{3}}$$

N : ポンプの回転速度[min-1]

Q : 吐出し量[m3/min] (ただし、両吸込みポンプの場合はQ/2とする。)

S : 吸込み比速度 (S=1200~1800)

吸込み比速度Sは、効率の良いポンプを設計しようとすると1200に近づき、多少効率に目をつぶって吸込み性能を高くしようとすると1800に近づきます。

NPSHaveとは?

NPSHaveはNet Positive Suction Head available の略で、吸込側の有効水頭を指します。ポンプの羽根車入口直前の圧力が、飽和蒸気圧に対してどれだけ余裕を持っているかを表すヘッドです。

NPSHaveの求め方

NPSHaveは吸込み側全圧から飽和蒸気圧を引いた値です。

(a)吸込み液面に大気圧が作用している場合

以下の二つに分けて考えます。

吸込み液面に大気圧が作用している場合(吸込み液面が解放されている場合)は、吸込側全圧(大気圧+実揚程-配管の摩擦損失)から飽和蒸気圧を引いた値になります。

つまり

$$NPSHave = \frac{Ha}{ρg} + hs – \frac{hv}{ρg} – \frac{hf}{ρg}$$

となります。

ここで

Ha : 大気圧 [Pa]

Hs : 吸込み側水頭[m](液面がポンプより上方に位置する場合は(+)下方の場合は(-))

Hv : 飽和蒸気圧ヘッド[Pa]

hf : 配管の摩擦損失[Pa]

吸込み側全圧(吸込み側の実揚程や配管の摩擦損失)を求める方法はこちらの記事を参照ください。

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火プライオン
キャビテーションは、搬送流体が気化することで(飽和蒸気圧に達することで)起きるので、吸込全圧から飽和蒸気圧を引いた値をNPSHaveと定義するんだね!
 
火プライオン

この記事では、吸込み全圧の単位がPa[N/m2=(kg・m/s2)/m2)]となっているけど、密度ρ[kg/m3]と重力加速度g[m/s2]で割ればヘッド[m]になると思うよ?確かめてみよう!

(b)密閉容器に飽和蒸気圧が作用している場合

 液面に作用する圧力が飽和蒸気圧なので、Ha = hvとなるため

$$NPSHave = hs – hf$$

となります。

実際にNPSH3とNPSHaveを計算してみよう。

では、実際にNPSHreqとNPSHaveを計算しましょう。

ここでは、

(a)吸込み液面に大気圧がかかっている場合(給水タンクからの給水の移送など)

(b)密閉吸込み層に飽和蒸気圧が作用している場合(脱気器からボイラ給水ポンプでボイラ水を移送する場合など)

の2種類を計算してみます。

(a) 吸込み液面に大気圧がかかっている場合(給水タンクからの給水の移送など)

計算の設定は以下の通りとします。

ポンプ吐出流量 Q = 7m3/min

ポンプ回転数 = 1150 rpm (min-1)

大気圧 p1 = 101.3kPaA

吸込み揚程 h1 = 3m

配管圧損 ΔP = 6 kPa

水温 25℃

飽和蒸気圧 pf = 3.2kPaA

密度 ρ= 997kg/m3

重力加速度g = 9.81[m/s2]

・NPSH3の計算

吸込み速度比S = 1200と仮定すると

$$NPSHreq = \left(\frac{N \times Q^\frac{1}{2}}{S}\right)^\frac{4}{3}$$

$$= \left(\frac{1150 \times 7 ^\frac{1}{2}}{1200}\right)^\frac{4}{3}$$

$$≒3.5m$$

 
・NPSHaveの計算

NPSHave = Ha + hs – hf -hv

より

$$NPSHave = \frac{p1}{ρg} – hs – \frac{ΔP}{ρg} – \frac{pf}{ρg}$$

$$=  \frac{101.3 \times 1000}{997 \times 9.81} – 3 -\frac{ 6 \times 1000}{997 \times 9.81} – \frac{3.2 \times 1000}{997 \times 9.81}$$

$$≒6.5m$$

以上より、

NPSHreq<NPSHaveとなるので、このポンプはキャビテーションが発生せずに安全に運転することが出来ます。

 
火プライオン
圧力P[Pa]を密度ρ[kg/m3]と重力加速度g[m/s2]で割ればヘッドになるよ。

(b)密閉吸込み層に飽和蒸気圧が作用している場合(脱気器からボイラ給水ポンプでボイラ水を移送する場合など)

今度は、脱気器からボイラ給水ポンプでボイラ水を移送する場合を例にして、NPSHreqとNPSHaveを計算して行きましょう。ボイラ給水ポンプのように高圧縮水を移送するポンプは、NPSHreqが高くなるため、ポンプの上流側の脱気器の据え付け高さを高くしてNPSHaveを大きく取ります。

脱気器についてはこちらの記事を参照ください。

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・NPSHreqの計算

設定は以下の通りとします。

ポンプ吐出流量 Q = 3.0m3/min

ポンプ回転数 = 3600 rpm (min-1)

吸込み比速度(S) : 1500 (ポンプメーカーより)

$$NPSHreq =  \left (\frac{N \times Q^\frac{1}{2}}{S} \right) ^\frac{4}{3}$$

$$= \left (\frac{3600 \times 3.0^\frac{1}{2}}{1500} \right) ^\frac{4}{3}$$

$$≒ 6.7 [m]$$

・NPSHaveの計算

NPSHaveは吸込み側全圧から飽和蒸気圧を引いた値ですが、脱気器の液面に働く圧力は、飽和蒸気圧なので

吸込側全圧(飽和蒸気圧+実揚程-配管の摩擦損失)-飽和蒸気圧 

= 実揚程-配管の圧力損失

となります。

では、右下図を例にしてボイラ給水ポンプのNPSHaveを見ていきましょう。

吸込み揚程 h1 = 15m

配管圧損 ΔP = 30kPa

水温 150℃

飽和蒸気圧 pf = 476.1kPaA(125℃)

密度 ρ= 916kg/m3

重力加速度g = 9.81[m/s2]

$$NPSHave=吸込側全圧(飽和蒸気圧+実揚程-配管の摩擦損失)-飽和蒸気圧$$ $$= 実揚程-配管の圧力損失$$
$$=\frac{h1}{ρg} – ΔP$$

$$= \frac{15}{916 \times 9.81} – 30$$
$$≒11.7m$$

安全率1.5をとっても

NPSHave > HPSHreq × 1.5 となり、

ポンプは安全に運転できることが確認できました。

NPSH計算シート

簡単な計算内容ではありますが、ご活用いただければ幸いです。

配管の圧損計算シートはこちらの記事からダウンロードをお願い致します。

注意)計算チェックはしておりますが、万が一間違いが有るかもしれませんので、使用の際は自己責任でお願い致します。

以上、参考になれば幸いです。

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